べこ。

どうやら、10月は凹む巡り合わせなのか?去年もぼっこぼこにやられたし。
と思ったら、もう、11月やったね。

昨日の夜、お世話になったお蕎麦屋さんに電話したら、家電だからか、声が遠くてとてもさみしかった。

こういう世界なので、裏表とか騙し合いみたいなんはあるだろが、今まで、そういう場とは出来る限り、距離をとったり、関わらないようにしてたし、特に東京でお会いした方々がそうとか言うわけでないけど、なんかちょっとだけ想像できてしまった。
ああ、色々、あるんやろなー、て。

だから、なんちゅうか、本当に信じたい人は信じたいな、と。
私のいかんとこは自信ないとこなんで、自信を持って他人に頼らなあかんな、と。

それが分かったし、まあ、芸についてもちょっと分かったし。
あ、昨日、尼崎の小学校で、一番前で写真撮ってくれはったカップルさん。嬉しかったです。ああいう、お二人が笑ってくれるようになるといいな。

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天使・前5

『「魔法の売り場」という話の記憶』

妹はエスカレーターに乗るのを怖がった。
段々が次から次にでてくるので、どこに乗ったらいいのかわからないようだったけど、あとでよく考えると、次から次にでてくる段々が多すぎて、それが怖かったのかもしれない。
蟻の巣にいたずらしたら、うじゃうじゃあと黒い蟻がわいてくるみたいなもんだ。
でも、やっぱり、よく考えても本当は妹がなにを怖がっていたかなんてわからない。
僕はエスカレーターのステップのところで、妹の左側に立ち、妹に手を差しだす。
小さかった手。
僕と妹は握った手をふりこみたいに揺らして、タイミングを取った。
いっせーのーでっ。
妹の手を引っ張りあげながら、僕と妹はエスカレーターの一つの段に乗ることができた。
すぐ横には下りていくエスカレーター。僕と妹は昇っていく。
僕はお正月におじいちゃんにもらったお年玉で、マジックセットを買おうと思っていた。
マジックセットを買って、練習して妹に見せて、友達の誕生会で披露して、そして、手品師の人みたいにデパートのマジック売り場で、いろんな手品をする人になろうと思っていた。
エスカレーターはすぐに次の階に到着する。
あと、三回、エスカレーターに乗らないといけない。
大変だ。
でも、妹は二回目は一回目よりエスカレーターに乗るのが巧くなっていたし、三回目は二回目より巧くなっていた。
マジック売り場に向かうとちゅう、お愉しみ広場で、おみくじ大会をやっていた。赤いエプロンをしたおじさんが、風船を持ちながら「おぉい。おみくじやぞー。大吉、引いたら、福袋があたるでー。どうや。どうや」と歌っている。僕は妹の手を握り合図した。妹は僕の顔をみてから、僕のみている方に顔を向けた。
妹は風船が欲しいようだった。僕はおじさんに風船をもらい、妹に手渡した。薄い水色の風船を嬉しそうに見つめる。飛ばないように、ひもの部分を強く握った。
おじさんは妹に、「お嬢ちゃん。福袋が当るよ、福袋。おみくじやらん?」と話かけてきた。
妹は、おじさんの顔をじっとみつめていたけど、
「お兄ちゃん」と握った手で話かけてきた。
僕は、「今から、手品を買いに行くんです」と言って、その場から離れた。
妹は、風船の水色を見つめながら、僕に手を引っ張られていた。
マジック売り場の前には、子供たちがたくさんいた。
みんな、手品師の手をじっとみている。
手品師の人は、赤いチョッキに蝶ネクタイをし、偉い人のかぶるような帽子をかぶっていた。
僕たちはもっと近くで見ようとしたけど、子供たちの後ろには腕を組んだ大人たちもいて、手品はほとんど見えなかった。僕と妹は、少しの間、そうしていたけど、なかなか前に進むことができなかった。
妹がつまらなさそうにしだしたので、屋上に行く階段に向かうことにした。
一つ上の階は屋上遊園で、ベンチもあるし、人もそんなにいないだろう。
僕は妹の手を引いて、階段を登る。
階段は、何回、段々を数えても、同じ数になるから、妹も怖がらないだろうと思った。
途中の踊り場で、さっきの手品師の人と同じ、赤いチョッキを着た、おじさんが座っていた。
おじさんは僕と妹をみると、少し微笑んで、でも、ため息をついて肩を落した。
本当に肩がはずれるぐらい、頭を前に倒して。
僕はおじさんの横を通りすぎようとしたけど、妹はおじさんの頭をじっとみつめて動こうとしなかった。
おじさんは首を上げて、妹に向かい、「お嬢さん、なにか欲しいものがありますか」と聞いた。
僕は「あの。マジックセットを買いにきたんです」と説明したけど、おじさんは今度は僕のほうをみて「マジックセットじゃないだろう。本当に欲しいものは」と言った。
僕はわけがわからないまま、妹の方をみる。
妹は、手を一回、ぎゅっと握り、風船の水色をみて「うみ」と口を動かした。
妹は、確かに海といった。
妹は、耳が聞こえない。だから、言葉を発せられない。
「うみか。海の歌が聞きたいのかな」
おじさんは立ち上がりながら、上着のポケットに両手をつっこんだ。
おじさんはよくみると、おじさんというより、おにいさんみたいだった。
妹はおじさんの方をみて、にっこり笑った。
今年はじめての妹の笑顔だった。
「初笑い」
とおじさんというより、おにいさんはいって、
「もし、お金があるんだったら、それで海の歌を聴くことができるよ」と言った。
僕は、お年玉を全部、だすことにした。
本当は少し、考えたけど、妹が海の歌を聞きたいなら仕方ない。
僕と妹とおじさんではなくおにいさんは、屋上の扉を開けた。
屋上の扉は重そうで、おにいさんがいてよかったと僕は思う。
扉からは、光がはみだしてきて、眩しかった。
僕は目を瞑ったけど、妹は目を瞑らなかったらしい。

そして、僕たちは屋上のベンチで海の歌を聞いた。水色の風船とよく似合っていた。
妹はすごく嬉しそうで、帰りのエスカレーターは行く時よりも上手になっていた。
海。海に歌があるのか。
歌ということは音ではないんだ。

天使・前4。

『ファンレター』

どうも。

そちらのみなさんはお元気ですか。
こちらは元気でやっています。
漫画は未だかけていません。

こないだ言っていた構想を最大限活かすには誰もみたことのない確かな構図を探す必要があるのです。
だから、まだ、一ページも、描けていません。
でも絵を描くことはやっぱり好きです。
こないだ花を喰らう妖怪の女の子がもう二度と会えなくなった大好きな男の子を夢に見るため、動物園のバク(夢を喰うあれです)のサクの前で眠る、『花と舞い散る夢』というタイトルのA4版の絵を描きました。
交通事故と戦うべくヨーロッパ(イギリスのロンドン)の交差点で手旗信号を始めた頭の変なおじさん(雲みたいなヒゲをたくわえていてかわいい)の絵も、これはマッキントッシュでだけど、描きました。

そういえば、こないだファンレターをだしました。
少し好きな人です。
文学の新人賞を獲った人です。
彼の作品の中に「漫画は文字から読むのか、絵から見るのか」という、明治維新の人の台詞があって、それにすごく感銘を受けたので、その気持ちを伝えたくてファンレターを書きました。

少し好き、というのは、私はその人のことをその作品とちょっとしたインタビューでしか知らず、もしかしたら、本当は大好きな人なのかもしれないし、ちょっと嫌いな人なのかもしれないけど、よくわからないということを含めての、少し好き、です。

だから、そんな風に、少し好き、なだけの人にファンレターをだしてもいいもんだろうか、私の書く文章は彼の近しい人のように振舞ってないだろうか何回も読み返し、いくつもの郵便ポストを巡り、投函口に手を入れたまま、手紙を離さず、次の郵便ポストに向かったりと、気持ちも体もうろうろしてしまいました。
そしてこれは、漫画を完成して誰かに読んでもらうことと同じなんじゃないかと思いました。
どんな風に読まれるかはやっぱりまったくわからなくて、だから恐ろしかったりします。
でも少し期待します。
もしかしたら、返事がもらえて(ファンレターのことです)、そこから知り合いになってもっともっと仲良くなってずっと一緒にやっていける仲になるんじゃないか、とか。(美優姉ちゃんが、お見合いパーティーに行く前にする期待と同じようなものです)でも期待しちゃだめだと思うようにしています。
感銘を受けた気持ちをただ伝えたい、ということの方がなによりもまさったので、手紙をだすことにしたのだからと思うのです。

そちらは寒いですか。

こちらはさきほど青空なのに雪が舞っていました。
粉雪じゃない、まさにスノーフレークというような雪でした。
桜の花びらのようにきれいでした。
だから、今から、『バクの夢の中に花吹雪』というタイトルのA4版の絵を一枚描こうと思っています。

ではみなさんによろしくお伝えください。

さいごに。

私はあなたが好きです。

天使・前3。

『ナイターとウイスキー』

アルプスの最上段から眺めると、球場の緑色はとても鮮やかで人工的な色だなと思った。
私は予備校生になりたてで、まだ少しだけ気持に余裕があったから、甲子園で売り子のバイトをすることにした。
給料は完全歩合制で、売上げの5パーセントを一日ごとに支払われる。
募集は短期、阪神巨人三連戦の三日間だけだった。
1993年シーズンの伝統の一戦はチケットなんて取れなかった。球場でしか味わえない熱狂を見たかったし、きっと、これから受験勉強を始めるとなると、ゆっくりナイター中継をみることなんてできない(というより、自分を律して、みないようにしないといけない)との思いもあったので、せめて、夏の模試が始まるまえに見に行こうと思ったのだった。
売り子は、契約している商店によって、売るものが違う。
私を雇ったN商店はウイスキーのみを専門に販売していた。
ほんとうは、ビールの方が需要もあるし、その分、給料も高いのだが忙しく売り歩くのは大変そうだった。
かといって、募集広告に売る商品のことなど書いてなかったので、自動的にウイスキーを売るしかなったのだが。
一日目は、阪神が巨人に負けた。
ウイスキーの小瓶が1ダース入った段ボールと、ロック用の氷を入れるクーラーボックスの二つを交差させて肩にかけ、プラスチックのカップを段ボールの隅に挟んで売り歩かないといけない。需要、単価に対して、売り子にかかる負担は大きい。ビールなら、缶ビールの段ボールだけですむ。しかも、ウイスキーは売れない。
企業の接待で使われるような年間指定席や、ボックスシートならまだしも、ほぼ立ちっぱなしで応援している外野席なんかで売れるわけがない。一日目はコツをつかめず、外野やアルプス、すべての座席に行ってみたが、内野以外で売れることはなかった。しかも、ぎゅうぎゅうの外野席は、人の出入りが激しいため、荷物を持って歩くだけで邪魔になる。
思うように売れない(あたり前だろう、とその時も今も思うけど)し、歩合制だからと頑張って売ったところで五千円程度にしかならなかったので、二日目は野球をみることを中心に売り子をすることにした。ただ、三十分おきに本部に戻らないといけなかった(売り歩いている間、ロックの氷が溶けるので、その交換もあり)ので、内野の適当なところでふらふらと「ウイスキーいかがですか」と声をかけ、顔だけは試合を観戦していた。
甲子園の通路は狭いので、大荷物を持った私が動かないでいると、すぐ近くの客が見えないと怒鳴ってくる。
今まで自分も関西人であったのに、この時は関西人のガラの悪さを感じずにはいられなかった。
他府県の人が、関西弁のことを喧嘩しているように聞えるから怖い、というのも納得できた。
というか、彼らは喧嘩しようとしているのだ。そう、思った。自分の思うようにいかないと、世界に喧嘩を売る人種なのだ。
自分も含め。

外野は最上段まで目いっぱい人がいて、その上、応援団が至るところで大きな旗を振り、ラッパをかき鳴らす。
せせこましい空間で、みんながみんなメガホンを打ち鳴らす。足もとには、もちこんだ弁当の食べガラや、ビールの紙コップ、まだお茶の残るペットボトル(持ち込み禁止だが、かばんの底に隠してもって入る人が多い)が横になって転がり、足の置き場がない。
外野には行きたくないな。
内野指定席の阪神側、巨人側を行ったり来たりしていると、いい時間になった。
七回のラッキーセブンは、内野の最上段でゆっくり風船が飛ぶのでも見物しよう。
最上段に着くと、階段の端に座り込み、膝の上にウイスキーと氷のバッグを抱えた。
周りの席に座った人たちは、それぞれジェット風船を膨らまし始める。
私はふと、グラウンドとは反対、球場の外に目をやった。
阪神高速がすぐそばをはしっている。道路には三メートルほどの壁で目隠しがされているので、ここからは車が見えない。
真下に目をやると、球場外には人の姿はみえず、静かだった。
ふいに歓声が上がり、グラウンドを振り返ると、七回裏、巨人の打者が三振で終わったところだった。
阪神タイガースラッキーセブンの攻撃です。
場内放送の女の声が告げる。
続いてコミカルな曲が場内に響く。
色とりどりの風船がライトに照らされ、ジェリービーンズが食ってくれ食ってくれと立ち上がっているように見える。
風船を持った人たちは、音楽に合わせて風船を上下に揺らす。音楽はコミカルに。
たたたたたたたたた たーたたたたーたたた たーーーたったたー
という、トランペットの音とともに風船が一斉に放され、上に飛び上がっていく。
ジェリービーンズは、霊魂のように夜の空へと舞い上がる。藍色の空にピンクやオレンジ、イエロー、ブルー。カラフルで、つやつやしたウインナー状の物体が入り乱れる。風船は真直ぐに飛ぶんだり、うねりながらほかの風船とぶつかったりしている。
人々は歓声をあげ、手をたたき喜ぶ。
ジェット風船のピューという音。
萎んで落下する霊魂の皮。
歓声の合間に救急車のサイレンが聞えた気がした。
阪神高速の目隠しが途切れているあたりを赤いランプが通り過ぎていくのがわかった。
その先に目を向けると、細い灰色の煙がのぼっている。
また、もう一台、赤いランプが通る。
球場の方へ体を向けると、近くに座る人たちはまるで気づかないようで、メガホンを打ち鳴らし、応援団のラッパに合せ、選手を応援する歌を歌っていた。打者がライト前にヒットを打つと、メガホンを細かくたたき、喜びを表現する。
私はもう一度、阪神高速のほうへ目をやった。
煙はさきほどより、太く、より天の方へ昇っている。
球場の外には、先ほど人々が飛ばした、風船のカスが散らばっていた。
今はごみにしかみえない。実際、ごみでしかないのだ。
フェンスにもいくつか引っかかっている。
歓声があがる。次の打者がゲッツーになり、歓声はため息にかわる。
しかし、すぐにラッパは次の応援歌を奏で、人々はメガホンを打ち鳴らす。
試合は、最終回に外国人選手のパチョレックがツーアウト二塁で、ヒットを放ち、阪神が勝った。
内野のバックネット裏でみたパチョレックは大きかった。バックネットに群がる人たちとは違う人種なんだと思った。
人々はメガホンを持ったまま、パチョレックのヒーローインタビューにメガホンで拍手を送る。
私は、本部に戻り、わずかな給金をもらった。
ヒーローインタビューは続いている。
私は、N商店のアルバイトを仕切る大学生風の男の人に、片づけを頼まれ、殻になったウイスキーの段ボールを潰しにかかった。ほかのアルバイトの分も合わせると、結構な量になる。それを重ね、球場外のごみ置き場へ持っていく。
球場外には、すでに引き上げてきたファンの姿があり、駅の方へ小走りに向かっていた。
私はもう一日雇われていたが、次の日は休むことにした。
自分が受験生で、受験勉強の方が大事だとかいう、即物的なことではなく、もっと大事なことがあるかもしれない。
ふいに、焦燥感のようなものが沸き出した。受験勉強が大事だとかいうのではなく。
もっと、球場の最上段でみた光景のように大事なのことだけれど、見過ごしていること。それを思った。

天使・前2。

『小さくても、奇跡しか、いらん』

袋小路だった。追い詰められた。私じゃなく、ねずみ。私の前を走っていたねずみが、私の前を走っていた猫に追い詰められた。厳密にいうと、私の前を走っていたというより、私は彼らを追いかけていた。
猫がねずみをいたぶるシーンがみたいという、ただの欲望だった。
でも、ちょっと考えて、それはそれで血生臭いからヤダな、とも思った。生臭い感じがしたらすぐに去ろう、と思っていた。
とりあえず、こちらに背を向けている猫と、ジリジリした顔で猫を見ているねずみを写メールで撮らなきゃ!そう思って、鞄に手を入れ、携帯電話のストラッブを掴み取り出そうとすると、ストラップの紐に飴ちゃんが引っ掛かり転がり落ちた。

それは、丸い飴をセロハンで包み、両端をひねった、昔の飴ちゃんだった。しかも塩胡麻味。
あぁっ、ばか!なにやってんだ、私。こんな緊迫したシーンで!

猫が飴ちゃんに気付いた。猫は飴ちゃんに近づき、匂いを嗅ごうとしている。

おぉ!なるほど!ナイス私!
ねずみ!今のうちに、猫の脇を通ってはよ逃げろ!

興奮しながら、袋小路の隅にいるねずみに視線を移そうとしたら、黒い固まりが視界をよぎった。

あ!ねずみ!
ねずみ、逃げんと、猫と一緒に飴ちゃんに興味持ってもうた。
おまーえーは、あーほーかー。
せっかく、私が助け舟だしたったのに!ま、偶然やけど。

猫とねずみは塩胡麻飴ちゃんを挟んで向かいあってる。
猫が飴ちゃんをくわえようとした。瞬間、ねずみが猫の鼻を噛んだ。
へげっ!つった。
ねずみ、私の右側、通って逃げよった。
『窮鼠、猫を噛む』や!思た。
ちょっと意味ちゃうような気がする思たけど、もう、次の瞬間には眠りに落ちとったわ、私。

天使・前1。

『新しい恋人のポットの話』

「ポットの湯って怖いな」
新しい恋人は、何故か、私の話を先取りした。
うん、はい。
何が怖いって、次々、水を足しテイクやろ。
テイクやろ?
あー、足して、いくやろ。
か。
新しい恋人は大阪弁を操る。巧みではないけど、普通に、適度に操る。
あの、足されて、薄まって、足されて、薄まって、ちょっと足して、またちょっと薄まって、ていう、オリンポス?オリンパス?ちゃうちゃうちゃう。あー……シジポス。あの、頂上に岩を運んでは転がし、運んでは転がししとる奴。あ、でも、これ、ちょっと違うか。どっちかっちゅうと、少林寺の特訓で、一回目は全然あかんのに、二回目はさっきよりちょっとうまなって、三回目はもっとうまなってっていう、循環してるだけにみえるのに、徐々に変化するのに近いかな。
それが怖い。
だからって、全部を入れ替えるような無粋なことはできへんねん。
ブスい?
大阪弁?
「無粋」
憤然と答える、新しい恋人。
でも、ありそうじゃない。ブス臭い、ブスっぽい、ていうのを略して「ブスい」。「きもい」の親戚。
「それやったら、『キモ』臭いってことになるやろ」
あ、そっか。
「じゃなくて」
新しい恋人は少し苛立ったようだ。
「少し足して、もともとの水が薄まると、そこで、すでにもともとの水とは違うようなって、またそこに足すと、その最初の薄まったやつとはまた違う薄まり方になって、つまりは、含有率の問題なんやろうけど」
うん。それって、その時のお湯はその時のお湯ってこと?
「なんかちゃうなぁ。お湯がコーヒーやったら、わかりやすいかな。この水に足してみて実験やな」
新しい恋人は、自分の手元にある水の入ったグラスを持って、言った。
コーヒーおかわりする?
「いや、お前のコーヒーを入れるから」
なんでやねん。
「今の感じ。ポットのお湯って。俺じゃなくて、千博君からみた、今のお前」

千博君は一個前の古い彼氏の名前だ。